みなさんには「故郷」はありますか?今回は「故郷がない、都会育ちがコンプレックス」という成木恵理子さんが、クラウドファンディングで東京都の端・五日市に人が集う古民家茶寮をOPENさせるという「ごえん分校」のプロジェクトについて伺いました。
新宿から電車で60分揺られると見えてくるのどかな風景。ビルが立ち並ぶ東京のイメージとはかけ離れていますが、ここもれっきとした東京都。
取材当日は街の中心で「グランピングフェスティバル」が開催され、多くの人が集い、語らい、皆さん本当に楽しそうな様子でした。今回のフェスの参加者は地元の人と、それ以外の地域の人が半々の比率なんだそう。地域の「なかの人」と「外の人」が上手く交わる場を作り出すお二人に、「地域活性化活動を続ける秘訣」をお伺いしました。
聞き手:Readyforチーフキュレーター 夏川優梨
暖かみのあるお金の流れをもっと多くに方に届けたいとReadyforにジョイン。
現在は、クラウドファンディング事業部のマネージャーとして、最強のキュレーターチームを育成、街づくりや古民家再生に関わるプロジェクトを多数担当している。
お話:ごえん分校 成木恵理子、金久保誠
東京23区生まれ。2014年に東京都の端・五日市を盛り上げるため、「ごえん分校」を立ち上げる。
「なんでこんなに東京に人が集まるんだろう」わからなかった思春期
夏川:五日市・ごえん分校とはどのような場所・活動でしょうか?
成木:新宿から約60分で着くところにある五日市は、里山や渓谷などの豊かな自然に恵まれ、人と人との触れ合いが色濃く残っている街です。わたしたちごえん分校は「“ヒト”と“マチ”のご縁をつくる」をコンセプトに、五日市を「知ってもらう!来てもらう!楽しんでもらう!」ということを軸に、勉強会やコミュニティスペース「ごえん分校」の運営、フェスやイベントの開催をしています。
夏川:成木さんは生まれも育ちも東京だとお聞きしました。「地域活性化」の活動をはじめたのは、地方には東京にない「良さ」があると考えてのことだったのでしょうか。
成木:いえ、実は思春期くらいから「なんでこんなに東京に人が集まるんだろう」「なんでみんな地元に帰らないのかな」っていつも疑問に思っていたんです。だから、「地方の良さ」を知りたいというより、純粋に疑問に思っていたから地方に行くようになりましたね。
その時は田舎には仕事もないし、そもそも自分が生まれた地元に魅力もないしっていう事にも気づいていなかったんです。それを知ったのが、五日市に来る前に活動をしていた島根県の海士町(あまちょう)なんです。
「もう間に合わないから諦めてください」医療が届かない地方の課題
成木:島根県海士町は、人口2300人の小さい島で地元では「死ねない島」って言われていました。医師は居るんだけど島の病院だと大きな治療が出来ないから例えば骨折をしたら鳥取まで出なきゃいけないとか本島まで戻って入院するしかなくて。
一応、救急ヘリコプターとかもあるけど重病だと断られちゃうんです。「その状態だったらもう間に合わないから。すみません諦めて下さい」って。みんな親御さんでその経験をしたりしていて。それを聞いたときに「地方にはこんな課題があるのか」とビックリしましたね。医療の問題もそうですけれど、商店街もないしスーパーもない。商店はあるけど商売いをしようという感覚がないから、食べ物なのにパッケージに埃が積もっているというようなこともあって。地方ならではの課題がたくさんありました。
子供が生まれて、仕事をして、生活をして、生きていくには島を出ないとしょうがないという理由で島を出ている人の方が多いと知り、次の世代のためにも地方や地域の課題を解決したいと思うようになりました。
五日市を盛り上げようとアイデアを100本提出。全て断られて
夏川:活動の地をここ「五日市」にしたきっかけは、なんだったんですか?
成木:五日市には縁もなかったよそ者の私ですが、ある時「OTODAMA FOREST STUDIO」という五日市のフェス実行員の友人から「五日市の活性化に繋がるアイデアが欲しい」と相談を受けたことがきっかけで五日市を知りました。2年前にはじめてこの街の話を聞くまでは、同じ東京にも関わらず五日市には一度も行ったことがありませんでした。
それまで五日市がどんなところなのか知らなかった私は駅を降りた瞬間、その景色にまず驚きましたね。そこには東京とは思えない、山に囲まれた自然風景が広がっていました。
風景に惚れ「これも何かの縁だ!」と思った私は、さまざまなアイディアを地元の人に持ち込みました。野外フェス「OTODAMA FOREST STUDIO」は開催され、2日間合わせて10,000名近いお客さんが五日市を訪れてくれました。ただ開催地が五日市の中心地ではなかったので、商店街に全くお金が落ちず、イベントとしては成功だったけれど、街を盛り上げるという点では成功とは言えなかったんです。それから、「この地でイベントや人が集まることをやって成功させたい」と思うようになりました。
イベント後、「もっと五日市を元気にしたい」という気持ちで地元のおじちゃんたちに話を聞いていたんですが、どんなアイデアを話しても「いや、ここの地域は女性がいないし」や「学生も全然歩いてないから」などという反応で。
じゃあ若い人たちや女性があつまるような元気な街づくりをしようと、アイデア100本ノックをしたりもしたんですけど全部嫌だと言われて(笑)。
「それはやった事がある」「それは嫌だ」「それは今はムリ」と否定され続けたんです。否定され続けているうちに、私の中にイライラや挑戦心が生まれて来て。「それならどういう地域になりたいんですか?今、有名な地域が一杯あるじゃないですか?亀山とか海士町とか紹介しますよ!」と地域活性化がうまくいっている地域の名前を出したんです。「何、亀山って?」と聞き返されました。地元の人たちはそういったロールモデルとなるようなほかの地域のことを全然知らなかったんですね。
まずはほかの地域の事例など、どういうものが今ほかの地域で流行っていて、それをどう五日市風にアレンジするかというような議論ができるようにと思いました。そこで、「ごえん分校」を立ち上げて、町づくりの事を経験者から聞くという趣旨の学校を始めました。
ごえん分校で学ぶうちに「五日市をこんな地域にしたい」が生まれた
夏川:まずは学校から始めたということですね。クラウドファンディングサービス「Readyfor」で資金を集めたコミュニティスペースを作りあげるまでにはどのようなことがありましたか?
成木:勉強会に関してはだいたい1ヶ月に1-2回のペースで2年間くらい続けてやっていました。そのときはテーマに興味がある人が集まって、登壇してくれる地域活性化の活動をしている人の話を聞いたり、ワークショップをしたりしていました。
みんな「亀山ってなに?」と言っていた初期に比べて「五日市をこんな地域にしたい」という願望や理想を描けるようになっていきましたね。「もっと五日市を良くしていくために、取り壊される予定だったこの五日市の象徴でもある建物を買い取って、リノベーションしよう」ということになりました。
拠点となる場所もでき、きっちりと事業化して、サスティナブルにこの五日市やあきる野市を元気にしていこうという決意がかたまりましたね。
クラウドファンディングを始めてPC操作ができないおばちゃんからも支援が
夏川:クラウドファンディングを実際にやってみてどうでしたか?
成木:クラウドファンディングをやってよかったなと思うことはいろいろあるんですよ。
クラウドファンディングを始める前は、五日市の町の中ではフェスとかいろいろやって来たけど、まだ町の人にごえん分校のことを知ってもらえてないんじゃないかなと思っていて。Readyforに掲載して広報活動をやるにあたって、地域の新聞だったり、町の人たちに話す機会が増えてやっぱりごえん分校についての認知が広がったと思っています。
パソコンの操作ができないおばちゃんから「寄付をしたい」という電話をいただいたりして「地域のなかの人に活動を知ってもらう」ということに関してすごく効果があったと実感しました。
ごえん分校は、それまでは単発のフェスをやったりしていて、名前は聞いたことはあるけど何をやっているか分からないっていう人がほとんどだったんです。Readyforのページで自分たちが目指していること、いま行ってる活動自体を整理することができました。
そうしたら、「ごえん分校の活動を応援したい」とか「いいと思うよ」って自分たちの目指していることがちゃんと伝わって、自分たちがやりたいことがなんなのかということを多くの人から教えられたっていうのが良かったですね。
あとは、振り返りがすごくできたなと思っています。ごえん分校の過去を紐解いていくことや知っていくのは楽しかったですね。外から来てくれた人からここがいいとかっていうのを聞く事はあるんですけど、中の人がどういうモチベーションでやっているのかとか関わって楽しいかどうかみたいな事を改めて聞くことが出来て、そういう思いでやっていたんだなとか、メンバーとコミュニケーションできたのが改めてよかったですね。
「地元を盛り上げたいけど何をしたらいいかわからない」人にこそ来てほしい
夏川:今後は五日市を含め、ごえん分校としてどのような展開を考えていますか?
成木:ごえん分校についてこれからやろうと思っていることは2つあります。ひとつめがビジネスコンテストです。若い世代がこの地域で仕事ができる環境づくりや、スキルを身につけるための支援になればという思いがあります。
若い人たちにこの五日市を盛り上げるビジネスプランを提案してもらって、実際にその人に事業を任せていくということを来季から取り組んで行こうと思っています。その事業をごえん分校でサポートしていきたいなと。
元々、よそ者の自分たちを受け入れて、今日みたいなイベントなども積極的にできるようにしてくれた地元のおじちゃんたちにはすごく感謝していて。それは、おじちゃんたちも若者だった私たちにどんどんチャンスを作ってあげたいと思っていたから受け入れてくれたんだと思っています。自分たちが受けた恩恵があるからこそ、それを若い人たちにも返していきたいです。
そこにきた若い人たちが、またほかの地域に出ていって、その地域でまた地域活性化の取り組みを広げていってもらいたいとも思っています。五日市が一つの中心地であって徐々に周りの地域に同じようなことを広げていきたいです。ごえん分校の中には隣町とか隣村出身の子がいて「自分の街に魅力を感じないから、何か地元で盛り上げることをしたいけど何をしたらいいかわからない」というモチベーションでごえん分校に来てるっていう方もいるんですよ。だからそういう方たちが増えていって自分たちの地元に帰っていった時に、ごえん分校で学んだことを役に立てていってほしいなって考えています。
ふたつめは五日市リアルマーケットっていうのをやろうと思っています。今はウェブ上で小規模でお店を始めている人や販売をしている人が増えているじゃないですか。蚤の市とかいっぱいあるので、そういった小商いのようなことをしている方たちにここを使ってもらえたらいいなと思っています。
一時的なブームで終わらせない。地域の人々と対話しながら活動を続けること
夏川:地域活性化について大事だと思っていることを教えてください。
成木:地域活性化に関する活動は、最近いろんなメディアに注目されていますよね。本当に大切なのは、どのくらいその活動を続けていく気があるかということ。地元の人たちにとってその部分がとても大事だと思っています。その時に一時的に盛り上がってみんな喜んでくれたけど、次の年には誰も来ないという状況になってしまうと、地域の人々も一時的な商業的なものに利用されたのかって悲しい気持ちになってしまうと思うんですよ。一時的なブームで終わらせず、しっかりと地域の人々と対話しながら続けていくことが一番大事なことだと思っているのでそれだけは常にみんなで意識しています。
後編では、実際に成木さんがどのように五日市の地域になじんでいったのか、地域に関わりたいけどどのように関わっていけばいいのかわからないという方へのアドバイスをお伝えします。
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