2014年9月に「医療用ウィッグ写真集を発行し、全国のがん拠点病院へ寄贈したい」というプロジェクト(https://readyfor.jp/projects/fukuribiiryoyowig-photo)を達成したNPOふくりびの岩岡ひとみさん。今回は、NPOふくりびが、2015年11月名古屋にOPENした患者さんのためのアピアランスサポートセンター「あぴサポあいち」で岩岡さんのお話を伺いました。
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聞き手:Readyfor 総務 納谷春菜
法政大学キャリアデザイン学部卒業。在学中は株式会社、NPOも含めたスタートアップを学び、前職でIT系の中小企業で営業、採用、個人情報管理を担当。2013年からReadyforのキュレーターとして1年半ほど業務し、現在はコーポレート部門全般を担当。
お話:NPOふくりび 岩岡ひとみさん
「誰もがその人らしく美しく」を目指し、高齢者・障害者・がん患者などを支えるNPOふくりびの事務局長・1児の母・愛知学院大学経営学部講師。
クラウドファンディング成功で医療機関や患者さんと繋がりが生まれた
納谷: がんに関してはマギーズ東京がオープンしたり、がん患者さんのピアサポートなど、やっぱり根強く活動が続いてるな、という感じはありますね。でも、がんのことを言いづらかったり、患者会をやるにしてもなかなか人が集まらなかったりというようなお話をよく耳にします。やりたいけどできないみたいな方が多いと思うのですが、実際長くがんに関する活動をされていてどうですか。
岩岡:うちは基本的には専門家の集まりなので、専門職の人間が運営を担って、ボランティアというよりは仕事として成り立つように仕組み化しているので効率的に運営できています。ただ、やっぱり患者さんとの長期的な関わりはすごく難しくて、活動の人数が増えてくると意見のすれ違いなどいろいろありますね。
常設拠点であるあぴサポに各患者会のパンフレットを置いたりできています。名古屋のほとんどの患者会さんと仲良くさせてもらっていて、いろんな形で交流したりしていますね。患者会っていうのは常設拠点を持つのは難しいので、マギーズ東京さんぐらい大きくてすごいものが建てられればいいんですけど、名古屋ではなかなか難しいです。あぴサポでは、女性のがん患者さん向けに居場所をつくるとか、ワークショップをやったり、患者会みたいなものもやっています。
また、名古屋の医療関係者は意識が高くて、いろんな病院の医師や看護師も一緒に活動してくれていて、良いリレーションシップができているので、今は信じられないぐらいの連携が整って来ています。この医療用ウィッグがきっかけでいろいろなところがつながりました。サポートブックを病院に寄贈したことで我々の活動を知っていただき、アピアランスサポートという言葉も徐々に普及してきているなというのもありますね。
納谷: 今までは活動はされていたけど、あまり医療機関や患者さんとつながっていなかったということでしょうか。
岩岡: ふくりびの医療用ウィッグも福祉理美容活動も、ちょっとずつ広がっていたんですが、医療機関との連携、患者さんとの連携は、なかなか何かが媒体にならないと難しかったですね。まさにReadyforみたいなクラウドで何かをやって、人に知ってもらうということに対して苦手意識はありました。名古屋の団体だということもあってなかなか、全国的に広がっていかなかったのが、Readyforでプロジェクトを立ち上げてうまくいったのも自信につながりましたね。
納谷: それはすごくうれしいです。医療機関で「健康や薬」についてじゃなくて「見かけ」に関しての本が一冊置いてあると気になりますもんね、これはなんだろうって。
岩岡: 書籍になっているということで信頼とか信用が得られる部分もあります。Readyforのプロジェクトで達成して書籍化したこの本は今まさに研修にも活用していまして、あさってのセミナーでも教材として使うんですよ。わかりやすいと好評ですし、これまでの医療現場では「患者さんのアピアランス」に特化した視点というのは抜け落ちていたところなので、とても便利だと言われます。美容室のほうにもこの本を見ていただくことによって「がん患者さんのウィッグカット」についての知識が広がったと思います。看護師さんに読んでもらったり、医療機関のがん相談支援室、抗がん剤治療を行う、外来化学療法の部屋にもこの本を置いてもらうことが増えてきました。この本によって看護師さんや医療機関が認知してくれたおかげで、患者さんにも情報が伝えられていますね。
がん患者さんにおしゃれな空間を楽しんでほしい
岩岡:落ち着く雰囲気だとか、おしゃれであることって、女性にとって大事ですよね。病院にばかりいると気が滅入る方もいます。この空間も名古屋のおしゃれカフェを担当されたデザイナーさんにカフェっぽい雰囲気でデザインしてもらいました。ここは普段はこっちでネイルをしてもらうスペース、ここがカウンセリングスペースになるんですよ。ご家族で来店される方も多いです。奥にウィッグをつくるブースがあるんです。
納谷: こういう事例はまだ少ない状態でしょうか?
岩岡: 民間でアピアランスセンターというのはほとんどないですね。病院内にアピアランスセンターみたいな場所はあります。ただ、あくまでも病院が運営しているところなので、パーテーションで仕切って、スチールのラックがあって、というような現状です。
Readyforでプロジェクト達成したことで見えた支援者さまたち
納谷: ここをオープンされるまで実際どれぐらいの期間がかかりましたか。
岩岡: ここは2015年11月にオープンしました。すぐそこががんセンターなんですけど、この周りは古い住宅街で、あんまり物件がないんですね。こういったテナント物件がなくて、困っていました。たまたま空き店舗になったのを見つけて。ここでやろう、と思いました。最初はウィッグ専門の美容室をやろうと思ってたんですけど、どうせやるならウィッグだけより、患者さんが集える場所にしたいなと思いました。がん患者さんの女性は爪や肌の悩みも尽きません。乳がんの患者さんには、下着の試着ができたりする場所も欲しいなと思って。
今、詰め込みすぎて少し狭いんですよ。だから、ここをきっかけにもう少し広くしたいですね。ファンドレイジングは考えてます。今後はどっちかというと院内でやりたいと思っています。ベルギーの人たちはファンドレイジングがすごく上手で、院内で上手く運営している事例があります。部屋自体の改装費をファンドレイジングする。だから病院は一切負担せずに、おしゃれな内装が実現できるんです。欧州では7病院ぐらいでやっていますが、病院によってはそれぞれデザインのコンセプトが違ったりするんですよ。
元々、この団体のプレジデントが、サバイバー(がん闘病経験者)なんですよ。自分が通ってた病院とも連携して、いろいろと活動をされています。ヨーロッパ中に進出していて、ベルギーだけじゃなく、フランスとかスイスにもアピアランスセンターを持っていて。基本的にはエステや美容の部屋と、もう一つカウンセリングルームみたいな部屋があって、そこに臨床心理士がいるみたいなスペースを病院の中につくっていますね。
あぴサポは、急に物件が決まったのでファンドレイジングは間に合いませんでしたが、本当はここも設立から寄付を募ったりしたほうが、プロモーションにはなったと思うんですけどね。現在は、日本財団や企業に運営費を一部サポートしてもらっています。
でも、Readyforの目標金額も結構高額だったので、あの額をファンドレイズできた団体というブランドというのも大きいのかなと思っていますね。Readyforでプロジェクトを立ち上げてあの額を達成できていなかったら、それほど支援者がいる団体というふうに、なかなか見えづらかったのではないかと思います。
納谷: よく今、ソーシャルキャピタルみたいな言い方をするんですけど、目に見えないですよね。
岩岡: 資本を何に換算して測るみたいになってくると、すごくPRしづらい部分があります。活動歴なのか、何なのか。事業規模だけで測れないじゃないですか。私たちのような団体だとボランタリーワークも多いですので。今までだと会員数だったりとか、活動年数だったり、事業規模、予算とか、そういうもので測っていましたよね。Readyforでプロジェクトを立ち上げて目標金額を達成したことによって、新しい基準、これだけの人に支援されてて、全国でこれだけ業種も問わず応援してくれる人がいるんだよ、というのが可視化できた、と思っています。
「忙しくて活動になかなか参加できないからお金で支援できる仕組みは嬉しい」という声が
岩岡: Readyforでプロジェクトを立ち上げてクラウドファンディングをすることは私たちにとって新しいチャレンジで、ファンドレイズすることに抵抗もありました。今ではそんな感覚はほとんどなくなりましたね。やるにしてもいろんなやり方をミックスしてやれるな、という自信にもなりました。海外の例ではいろんなやり方がミックスされていて、事業収益、寄付金、補助金いろいろ合わせて運営しています。今回、チャリティーコンサートをやることになったんです。でも、今までだったらやっていないかもしれませんね。
納谷: ところで、ソーシャルでも、寄付を集めることに関して抵抗というのがあるんですね。
岩岡: ありますね。ソーシャルだからこそある人たちもいると思います。元々寄付型でずっと運営されている団体とか、途上国支援などはそれ以外のやり方が少ないから寄付で、というのが根付いていますよね。ただ、我々のように対価も得ているようなビジネスモデルですと「ビジネスでお金を調達すれば良いのではないか。寄付金を募る意味はないのでは?」というようなお話になってきます。でも、私たちはそうではないと思っています。やはり、新しいチャレンジや最初の資金集めというのはなかなか難しいです。最初のステップとして寄付を使うというのには今まではハードルが高かったと思います。募金箱を持って寄付くださいっていう活動も大変ですし、企業に寄付をお願いするのも難しいですし。
納谷: そうですね。知り合いに「1万円支援してください」と言うのも勇気がいることですよね。
岩岡: 応援してほしいっていう気持ちをお金で換算することに対して罪悪感みたいなのがありました。クラウドファンディングをやってみると「普段何もできないから、お金でちょっと応援できるなら嬉しい」と言ってくれる友人知人が結構いて。活動には忙しくて参加できないけど応援はしている、というような方がいらっしゃるんです。
美容分野ともっと連携を拡大していきたい
納谷: 今後の展開で考えていらっしゃることはありますか?
岩岡: いろいろ新しいことはやりたいなと思っていて。ピアサポートや、がん患者さんの職業訓練とか。企業さんと一緒に大きなセミナーをずっとやっているのが継続しているので、支援の波を広げていきたいなと思っています。今、患者さんからのニーズをとても強く感じていて。皆さん困っていたり、必要として下さっていたりするんですけど、受け手が足りてないというか、ふくりびの医療用ウィッグのパートナーサロンも全国で100軒ほどになってきて、ここ2、3年はサポート体制も強化されてきてはいるんですが、美容側のネットワークとサービスレベルをUPしようと思っていて。
美容師さんも今は、お金のために働くというよりは、人に喜ばれたいなどの感性を持った世代がオーナーになってきていますね。今まではお店の中の縛りで、医療ウィッグやがん患者さんのアピアランスについて美容の面で何かしたいと思ってもなかなかできなかったという人が多いんです。だから、独立するタイミングでパートナーになるという美容関係の方が増えてきていますね。
インターネットの力もあるなと思っています。「美容というのは福祉や介護、医療などとも関わることができる仕事なんだ」みたいなことが、だんだん若い世代に知られてきています。今後は美容分野の方々とうまく連携していきたいですね。
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