2016年からReadyforで始まった、国際協力団体のファンドレイジングを完全サポートする「VOYAGE PROGRAM(ボヤージュ プログラム)」。第1期では3名の特別サポーターと共にファンドレイジングプロモーションなどを学ぶオフラインイベントを開催し、8つのNGO/NPOが参加。4ヶ月という短い間に、1,600人を超える支援者から、総支援金額3,600万円以上の資金調達をクラウドファンディングで達成。2016年10月に始まった第2期では、10団体がクラウドファンディングに挑戦しました。このVOYAGEプログラムをコーディネートするReadyfor田才諒哉さんと鎌倉幸子さんに、様々な質問をぶつけてみました。
聞き手:Readyfor チーフキュレーター 徳永健人
2013年、大学のプログラムを通じ、パラグアイ共和国に渡航し、農村部でのフィールドワーク等に参画。また、青年海外協力隊短期派遣ボランティア(平成26年度9次隊)で、家政・生活改善隊員として渡航し、首都エリアにおける栄養改善事業に従事。以後、横浜国立大学大学院へ進学し、開発学を専攻。今に至る。
お話 :
Readyfor 国際協力事業部 マネージャー 田才諒哉
1992年生まれ。READYFOR株式会社 国際協力事業部 マネージャー。青年海外協力隊としてザンビア、国際教育支援NPOのメンバーとしてパラグアイで活動を経験後、現職。クラウドファンディングのプロジェクトをこれまで200件以上手がけ、山口県下関市のゲストハウスのリノベーションプロジェクトでは、約4,500万円を集めるなど、1,000万円超えの大型プロジェクトを多数担当。准認定ファンドレイザー。
鎌倉幸子さん
青森県弘前市生まれ。アメリカ・ヴァーモント州のSchool for International Trainingで異文化経営学修士。1999年、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会カンボジア事務所入職。2007年東京事務所に異動。2011年1月に広報課を立ち上げる。その3ヶ月後に起こった東日本大震災の後、公共図書館が壊滅的な被害を受けた岩手県沿岸部で「いわてを走る!移動図書館プロジェクト」を立ち上げる。2012年3月からReadyforで「陸前高田市の空っぽの図書室を本でいっぱいにしようプロジェクト」をプロデュース。2015年12月末にシャンティを退職。2016年1月からフリーで活動中。
NGOの職員として現場と事務所の橋渡しをする日々
徳永:鎌倉さんは第1期に引き続き、プログラムをサポートされていますが、昨年末の「シャンティ国際ボランティア会」を退職後、現在どんな活動をされているのですか?
鎌倉:「シャンティ」を去年の12月31日付で退職して、1月からフリーで活動しています。「かまくらさちこ株式会社」という会社を立ち上げ、図書館運営のコンサルティングや、いろんな団体のファンドレイジングのお手伝いをしています。
15年間勤務してきた「シャンティ」を辞めた理由はいくつかあります。最近だと、私の活動ってファンドレイジングとか広報周りの担当だと思われがちですが、カンボジア事務所でも8年間働きましたし、後の7年が東京事務所勤務でした。2011年に東日本大震災が起きてからは岩手事務所の兼務、という日々でしたね。
NGO職員というと、現場や事務局だけで働いているという方が多いんですけど、私はどちらの業務も経験したので、現場と事務局の両方の状況を考えながら活動ができたんじゃないかと思います。
東京事務所にいるときには、ファンドレイジングの業務が大きな比重を占めていたのですが、現地のスタッフに活動報告を求める場合にも、そのタイミングなどを鑑みることができました。
今は雨期だからこうなんじゃないか、大変なんじゃないか、と現場感覚も把握しつつ仕事をするというのは、今でこそ当たり前なんですけど、事務局と現場で齟齬が生まれることがよくあるんですね。そこでは私は橋渡し的な役割ができていたと思います。
NGOで培った知見を、もっと多くの人に知ってもらうために選んだ道
徳永:鎌倉さんは、日本でまだクラウドファンディングの知名度の低かったころReadyforでクラウドファンディングに挑戦されましたが、何か変わったことはありましたか?
鎌倉:2012年に初めてReadyforで陸前高田のプロジェクトでクラウドファンディングに挑戦しました。目標金額の200万円に対し、最終的には800万円以上の支援を集めることができました。
それを経てから周囲の人に「クラウドファンディングによく挑戦したね」とか「アドバイスがほしい」とか「結局クラウドファンディングって何なの?」と、大なり小なりやってみたいという人が「シャンティ事務所」に相談に多く来られるようになりました。
私はウェルカムだったのですが、なんとなく「シャンティ事務所に『お金集めのやり方を聞きに来る人』が増えたら面白くないと思う人も増えるのでは」と感じました。「シャンティのノウハウを流出させる」というように思う方が多くなるのではと。
でも、私としては別にNGO同士というのは競合しているものでもないし、分野も違いますよね。医療支援であるとか、「シャンティ」が活動していない石巻のプロジェクトなどいろいろな社会貢献活動を行っている団体があります。
そんな経験を経て、私が持っている知見を一般に還元できるような立場で、プロジェクトの現場のオペレーションと事務局の仕事の大変さの双方を知っている人間として、コンサルティングみたいなことをできたらいいなと常々思うようになり、2015年の末をもって独立するに至りました。
予想を超えた成果が生まれた第1期『VOYAGE PROGRAM』
徳永:通常の国際協力プロジェクトのクラウドファンディングとVOYAGE PROGRAMの違いは何ですか?
田才:サポート体制が手厚いと言うことですね。鎌倉さんからアドバイスをいただくとか、電通でコピーライターなどをされている並河さんを始めとして多くの著名な方にもサポーターとして入ってもらっていることは、やはり大きな特徴だと思います。
加えて一番良かったのは、参加団体同士の横のつながりができたということでした。他の団体がどうやってファンドレイジングをやっているかを聞く機会は普段なかなかないですし、特に地方団体の方々にとっては得るものが多かったようです。
北九州が拠点の「ロシナンテス」や京都が拠点の「テラ・ルネッサンス」のような地方団体には、ほかの団体のファンドレイジングの様子やどのような人がやっているのかなどの情報がほとんど入ってこなかったようでした。そんな中で、VOYAGE PROGRAMのクルーメンバーとして3回のミーティングを顔を付き合わせてやることができたのは、本当に意味があったと思います。
内部で情報共有用に作ったFacebookグループも、最初は僕しか情報発信しないような媒体だったのですが最終的にはかなり盛り上がって、お互いでコミュニケーションを自然に取り合うツールになっています。
「テラ・ルネッサンス」が「シャンティ」のオフィスで秘密の作戦会議をしていたりとか、自団体だけでなく別の参加団体のプロジェクトを支援していたりとか、参加している他の団体の苦労がわかるからこそ、支援をしたいという部分も出てきていたようです。
「支援者が自分で能動的に、支援したい団体を選んで支援できる」ことが理想の世界
徳永:今日、国際協力の業界に流れるお金の仕組みとして、国の拠出としてのODAは縮小傾向でそもそも国益がないと支援ができない、企業が途上国に対して行うCSR活動やBOPビジネスは社益を前提としたもの、というジレンマがあります。民から民へのお金の流れを作っていくには、さらなる寄付文化の醸成が必要だと思うのですが、Readyforはどんなことをしていけるのでしょうか?
田才:難しい質問ですね。理想としては支援者が自分で能動的に支援したい団体を選んで支援してもらえるようになれば、自分の出したお金として責任を持ってもらえるし、自分が貢献した感も感じられると思います。でも現状、社会の一部の人しかまだまだ支援していないんですよね。そもそも支援に関心を持っている層が限られているし、わざわざ自分でその情報を調べて支援する、なんてことはあまりないと思います。
そう考えた時にReadyforができることというのは、立ち位置として「“国際協力”とか“社会にいいこと”のためにお金使いませんか?」と発信していって窓口を広げていけるといいと思います。子どもが売られない世界を目指している団体「かものはしプロジェクト」だったら「児童労働撲滅」みたいに具体的な活動がわかりますよね。そんな、わかりやすいメッセージ性のある団体は強いと思うんですけど、そうではない団体がどういう取り組みをしているのかわかるように窓口の役割を果たしたいですよね。より広い層が関心をもって実際に関われるようにしていきたいです。
世の中の「楽しく」を「寄付体験」にからめていく仕組みづくり
田才:あとは団体側に求められていることとしては、ファンドレイザー側が寄り添ってあげる必要がありますよね。世の中にお金を出す、という習慣を溶け込ませる必要があります。例えば「ガラ・パーティー」が良いイメージなんですけど、あれは、楽しくお酒を飲んでいたらそれが社会貢献になるんですよね。いい仕組みだと思います。世の中の「楽しく」を「寄付体験」に絡めていくっていうのはいいですよね。使った金額の何%かが寄付に使われる、スターバックスコーヒーのチャリティカードの仕組みなどもそうです。日常生活の中で、「楽しい寄付体験」と「寄付」をリンクさせるような仕組みをもっと考えてつくっていきたい。そういった意味でもっと日常生活の中に溶け込ませていきたいですよね。
鎌倉:ODAとか、JICAの案件とかって、一般市民からすると手に負えないというか、何をやっているのか分からない人が多いのではないかと思いますね。ダムを作ったりとか橋を作ったりとか。税金から拠出されているものなのに参加感がまるでないですよね。感じるものがあって、世界の役に立ててよかったと思う人もいるのかもしれないけど。そう意味合いもあるとするとReadyforの仕組みをもっと生活の中に組み込んでいけるといいなって思います。「支援する」ボタンを押すのって、なんか神社のお賽銭みたいな、賽銭箱に入れるみたいないい気持ちになりますよね。世界の平和を祈る、みたいな。でも危ないのは、本当に2クリックで支援できちゃいますからね。酔ったときにやっちゃうとたいへんですよ。この前「シャンティ」に支援したときに3000円かと思ったら、あれ30万!?みたいな(笑)。
田才:(笑)
鎌倉:でもその気軽さ、手軽さ、賽銭箱に入れるよりも簡単にできてしまう仕組みがあることって、すごく大切なことですよね。あとは、どんなプロジェクトであれ「自分ごと」として感じられるというのもReadyforの特徴だと思います。たとえ海外が舞台の問題であっても、その課題というのは実は日本人でも共感できるものがたくさんありますし、ホームレスだったり、伝染病だったり、日本にもある課題ですよね。そういったところで共感を集めていくことはできるかなと思います。Readyforでパートのお母さんがケニアを支援するために100万円を集めたエピソードも、これだけ共感を呼んだのは凄いですよね。海外の人たちが立ち上がろうとする姿に対して共感するのは、国なんて関係ないと思います。
田才:あと、ODAは主人公として“誰”がやっているかわからない、という部分が少なからずあるのではないかと思います。Readyforのページであれば、団体がしっかり自分たちの名前を名乗って、使い道を示して、ファンドレイジングをしていく。そこに潔さがあり、共感を呼んでいくのかもしれません。
高齢の方も身体が不自由な方も関係なく国際協力ができるシステムに
徳永:国際協力の「カネ・モノ・情報」の動きは加速してきたと思うのですが、昨今、青年海外協力隊への志願者数が減少したり、ヒトの動きは鈍化しているのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
田才:インターネットが普及したからこそ人の動きが少なくなった気がしています。VRで途上国のリアルを感じられるようになる仕組みも最近ですと誕生していますし、情報も簡単に手に入ります。インターネットが普及したことで人の動きを減らしているのではないか、ということは確かにあるかもしれません。でもそれは国際協力の在り方が多様化したからだと僕は感じています。高齢の方や身体が不自由で国際協力できない方でも関われる支援が増えてきたというところについては、時代に合っている気がしています。
学校のように学びあい、新しいお金の流れが生まれるコミュニティを目指して
徳永:最後に、第2期『VOYAGE PROGRAM』に対する意気込みを教えてください。
田才:すべての団体が達成できるようにサポートさせていただくというのはもちろんのこと、このプログラムに参加したからこそファンドレイジングへの意識が変わった、団体が変わった、と言ってもらえるようなプログラムにしたいです。これは3期以降のテーマになると思っています。すでに構想は固まりつつあるのですが、団体規模によってもファンドレイジングのニーズが違うということが分かってきたので、大小問わず、どんな規模の団体にも満足してもらえるようなプログラムを展開していきます。
鎌倉:私も全団体がプロジェクト達成という目標はもちろんだと思っています。田才さんの口癖でもある「あきらめない」というのは重要ですよね。「VOYAGE PROGRAM」全体で見れば1期、2期とコミュニティが大きくなっていて、これまでタブーとされてきたファンドレイジングの話を、団体間の壁を超えて、もっと腹を割ってしていけるようにしたいと考えています。そうしないと寄付市場がどんどんクローズになってしまいますから。
「VOYAGE PROGRAM」はまさに、ファンドレイジングのノウハウから実践、目標達成までをすべて包括した「“超”実践型ファンドレイジングスクール」ですよね。VOYAGEの担当者が数か月以上もコミュニケーションを取る体制もすごいと思います。もっといろいろな団体にこのサービスを広げていきたいです。
『VOYAGE PROGRAM』について
2016年10月より、第2期『VOYAGE PROGRAM』が始まりました。応募団体は第1期を上回る10団体。分野も国もさらに増え、地球全体の課題を解決するための航海(フランス語:VOYAGE)です。
また、2016年12月17日(土)には『VOYAGE TALK』というオフラインイベントも開催。国際協力を「する人」と「応援したい人」をオフライン上でつなぐことができる場で、これからもっと大きくしていきたいなと思っています。「会えるアイドル」じゃないですけど、「会えるVOYAGE」として魅力的なイベントになっているかな、と思います。
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